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新潟家庭裁判所 昭和42年(家ロ)29号 決定 1967年3月31日

債権者 太田清子(仮名)

債務者 李孔全(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

一、申立の趣旨

債権者が債務者に対して有する別紙目録(一)記載の債権の執行を保全するため別紙目録(二)記載の債務者所有の不動産を仮りに差押える。

二、申立の理由

(一)  債権者は昭和四〇年四月申立外李仁良と事実上の婚姻をした。

(二)  債権者と右李仁良は昭和四一年四月二二日右事実上の婚姻を合意のうえ解消した。

(三)  債権者は右婚姻中、家事上は勿論、李仁良が経営していた飲食店業を献身的に援助してきたものである。

(四)  李仁良は、別紙物件目録(二)記載の宅地およびその地上に鉄筋コンクリート建五階の建物その他建物一棟、動産類(飲食店経営のための)を所有し、その時価は金二、〇〇〇万円を遙かに超えていたので、債権者が前記解消によつて受けるべき財産分与金は金三〇〇万円を相当とする。

(五)  李仁良は、昭和四一年四月三○日死亡し、債務者は同人の唯一の相続人(李仁良と離婚した妻李フサノとの間の子)として被相続人である李仁良の全財産を相続した。

よつて債権者は右財産分与金を請求すべく昭和四二年三月八日新潟家庭裁判所に対し財産分与の審判申立をなした。

(六)  しかるに、債務者は李仁良の相続財産を処分すべく奔走中であり、このまま放置しておくならば、債権者が審判により財産分与を認められても、右請求権の執行を確保できないおそれがある。よつて右財産分与請求権金三〇〇万円の内金一〇〇万円の債権を保全するため本件申立におよんだ次第である。

三、当裁判所の判断

(一)  本件申立は要するに、債権者の申立外李仁良との内縁解消による財産分与請求権の執行を保全するため、債権者が右李仁良の相続人である債務者に対し、李仁良の遺産である本件宅地の仮差押を求めるというにある。

ところで、内縁の解消による財産分与の申立が家事審判法第九条第一項乙類第五号に該当するか否かについては問題のあるところであるけれども当裁判所はこれを肯定的に解すべきものと考える。

(二)  しかしながら、右財産分与の審判申立を本案として家庭裁判所に対し民事訴訟法上の保全処分を求め得るか否かについてはこれを肯定する見解もあるけれども当裁判所は次の理由でこれを否定すべきものと考える。

すなわち、家事審判手続は、一定の家事事件について国家がその後見的役割の機能を果すために特別の指導理念によりこれを処理すべく構成されたそれ自体いわば自己完結的な手続体系であり、従つて家庭裁判所は、家事事件の処理にあたり、特別の規定(例えば家事審判法第七条による非訟事件手続法第一篇の規定の準用)により民事訴訟法の規定を一部準用することもあり得るが、民事訴訟法上の保全処分をなすべき権限は本来これを有しないものというべきである(ただ人事訴訟手続法第一五条、第一六条によれば本来家事審判の対象事項についても民事訴訟法上の保全処分の申立をなし得るように規定されているが、しかしこの場合も家庭裁判所に保全処分をなし得る権限があるのではなく、右審判事項と併せて人事訴訟事件を提起すべき地方裁判所にその権限が属すると解すべきである)。

(三)  さらに、財産分与に関する審判の申立があつたとき家庭裁判所が職権により(すなわち申立がなくとも)分与すべき者の財産の保全につき民事訴訟法上の保全処分と同一内容の処分をなし得ることは家事審判規則第五六条の二に明定しているところであつて、財産分与の審判を申立てる者の審判前の地位はこの限りにおいて保護されているものということができる。もつともこの審判前の保全処分にどのような効力が与えられているかについては家事審判法および家事審判規則のどちらもこれを明定していないので争いのあるところではあるけれども、たとえこれを消極に解すべきだからといつて直ちに民事訴訟法上の保全処分を家庭裁判所に対し申立て得ると解するのは前記の法の趣旨を無視した考え方であるといわざるを得ないのである。

以上の次第で当裁判所は債権者の本件申立を不適法と認めて主文のとおり決定する。

(裁判官 山下薫)

(別紙省略)

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